「古本屋名簿」たより 

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「古本屋名簿―古通手帖2011」が出来上がるまでにはイロイロありました。
(実は出来上がってからもイロイロあるのですが・・・まあ、ここではそれはパス)

制作過程の裏話、よかったらちょっとお聞きください・・・。(編集部 折付)


※制作過程で取材させていただいたお店の中には、3月11日の震災で被害に遭われた方もいらっしゃると思います。
一日も早い復旧を心からお祈り致します。


「古本屋名簿」たより①

古本屋巡り必携のガイドとして’77年初版から’0121世紀版まで好評を博した『全国古本屋地図』が品切となって7年。本の世界も古本屋の状況も大きく変わり、従来の散歩風案内では時代に合わなくなってしまった。それでも新版への要望は根強く、今も問合せが絶えない。古本も古本屋もネットで容易に検索できる現在だが、必要最小限の情報をハンディに纏めた名簿なら便利だろうと、新たに『古本屋名簿―古通手帖』を企画した。東京古書組合TKI運営部の協力もいただいての発進だ。

まず「日本の古本屋」加盟860店にメールで問合せ。配信後9分で戻ってきたとらや書店を第1号に、当日中に130件、1週間で350件の返信がきた。対応の素早さに驚く。返信内容も概ね丁寧で好意的、掲載拒否は数件しかない。ネット販売専門の若いお店も積極的に情報を寄せてくれる。紙の名簿に対してこんなに反応が良いとは正直予想外だった。ただ非常に困ったのは、店名記載のない返信メールが結構あったこと。アドレス中の英字から店名や店主名を推理するしかない。これではお客も困るだろう。発信人情報は必ず記載すべきと思う(もっとも客側にも名無しは多いようだが)。

次は各地組合に伺ったデータをもとに個々の店へ詳細確認FAXを送る。こちらも2時間後から続々と回答が届いてきている。だが、“宛先無応答”で戻ってくるケースも多い。電話との共用でなくFAX専用番号でも通じないのはなぜか。注文を逃さないよう、改善策を講じた方がよいのではないだろうか。

こうして編集中にも移転予定で〆切延期希望の店が複数ある。掲載を望む声は本当に嬉しい。名簿作りは時間との勝負。この後は電話確認作業も控えている。「完成が楽しみ」と書き添えてくれた沢山の声を励みに、堆積したFAXの山と格闘する毎日である。

「古本屋名簿」たより②

キリン、シマウマ、ゴリラ、カンガルー、カピバラ、ヤマネコ、と言っても動物園ではない。古本屋の屋号である。蓑虫、カゲロウ、スカラベ、蝸牛、駒鳥、鴨、ニワトリ、コウモリ、鯨…実に多彩な生き物が業界に生息している。なんだか以前より動物名の店が種類も数も増えたようだ。中でも多いのはネコ、次いでウサギ。癒し系? ちょっと由来を伺ってみた。

◇前橋・山猫館書房。「青猫」「猫町」も考えたが、青猫は既にあり、猫町では気恥ずかしく、気取らずパワフル、宮沢賢治やヴィスコンティを連想する山猫を選んだ。看板を出し開店準備をしているだけで面白い屋号だと覗くお客がいたり、捨て猫を持ち込まれたり。野良猫館と呼ばれたこともあったとか。◇埼玉・古本ねこや。子供の頃から猫と暮し迷わず付けた。気侭な営業スタイルが店名とマッチ。開店当時はペットショップと間違われたりしたが、最近ネットで同価格で並んだ時、店名の気安さゆえの注文もあるらしい(招き猫のご利益?)。◇東京・古本海ねこ。海鳥の飛翔するイメージに加え、とにかく海と猫が好きだから。猫が空を飛べたら怖いものなしと言う店主のお気に入りは、ル・グウィン「空飛び猫Catwings」。美しい挿絵と村上春樹の訳が冴える素敵なシリーズである。◇高崎・うさぎの本棚。「不思議の国のアリス」のThe March Hare(三月うさぎ)より。不毛なお茶会をせず、ひたすら古書の整理に勤しむうさぎ主は二代目、初代店主は卯歳だそうだ。

こんな話が聞けるのも「名簿」作りの効用か。そういえば本郷のペリカン書房・品川力氏は翼代わりの自転車で遠路厭わず“文献配達”をされていた。本を届けるスタイルは変わっても届ける思いは同じはず。ほっと心が和んだところで、再び「名簿」に立ち向かおう。

「古本屋名簿」たより③

『名簿』作りの苦労話を少々。メールを一度、FAXを二度送って集まったデータは全体の約半分。返事のない店とFAXを備えていない店への電話取材が実は大変なのだ。

まず電話が繋がらない。曜日と時間帯を変えかけ直しても一筋縄ではいかない。うまく繋がっても「ごめん、忘れてた」なら御の字。「FAX?届いてないな。もう一回送って」三度目の正直ですぐ返信があるかと思いきや、そこから半月待たされたり。「FAX来てたけど、紙に書くの面倒だからメールにして」には世代の差も痛感した(最初のメールはどうしたの)。「店主が留守で判りません」も多い。指定の時間にかけ直すのだが、先日は一九時頃「○○書店さんですか?」と言った途端、子供の声で「けっこーです!」と切られた。二〇時頃に再チャレンジするも「けっこーです!」に脱力(全く…子供は早く寝なさい)。受話器の向うに疑いの眼差しを感じることは『地図』の頃からよくあった。今回は古書組合の協力でと説明すると殆ど納得してくれるが、それでも理事名まで確かめられることも。また、業界の切実な現状を訴えられるケースもある。「特に力を入れていることは?」と尋ね、「今、力入れても人は来ないし売れないし!」と吐き捨てるように言われた時には落ち込んだ。

一方、直接話すことで、返信を躊躇っていた店の思いを掬える場合もある。“通販専門無店舗”が増えているが、記載方法を相談し喜んでもらえるとこちらも一安心。「全国にかけてるの?大変だね。頑張って!」のエールにも勇気百倍。完成が少し延びそうだけれど、ごめんなさい!もう少しお待ち下さい。

因みに電話が通じるのは圧倒的に午後。全体的に古本屋の朝は遅い。珍しいのは梶原書店の七時半開店。都電荒川線梶原停留所という立地ならではで、業界一早いかもしれない。

「古本屋名簿」たより④

「名簿」には掲載を希望しない店もある。ネット専業で自宅を訪ねられても困るという心配は良く解る。無店舗と明記するとか、住所を省くなど提案し、大抵は納得されるのだが、先日はそれでも載せるメリットがないと言われた。「名簿」を買う人ならネットで検索するはずだと。それはちょっと違うと思う。

編集部では、ネットで何でも検索できる現在だから、アナログな部分も大事にしたいと考えた。「地図」のように散歩は無理でも、実際に本に出会える場についての情報にはこだわりたい。ただし、持ち運べる新書サイズで。一軒あたりの情報を絞らねばならず、URLやメールアドレスはとても入らない。今時これらがないのは不備だとのご意見もあった。よっぽどアナログな人間が編集しているのかとも…(まあ、アナログ好きなことは確かなのだけれど)。だが、周囲のデジタル人種でもURLを打ち込みはしないし、それこそネットで容易に得られるだろう。

店売り中心のお店はHPを持たず「日本の古本屋」にも最低限の情報しかない場合も多い。電話してみると、山岳関係や翻訳文学など特色もはっきりしていて活発な様子が伝わってくる。「ネットの時代だが(だからこそ)、街の本屋として頑張っている」という声もまた少なくないのだ。

確かに“無店舗”は増えた。全体の四分の三をまとめたところで、ざっと計算したら、掲載店中の無店舗率は二割。都市部は低めだが、埼玉・千葉・茨城あたりで三割。事務所的な店も含めたらもっとあるだろう。無店舗率を押し上げているのはネットの隆盛だが、無店舗=ネット販売とも限らない。欧米スタイルの予約制事務所もあれば、目録発行後二週間は来訪歓迎の“無店舗”もある。店には多様なスタイルがあるから面白い。いろいろなお店を訪ねる楽しみをサポートする小さなアナログ本を作りたい。

「古本屋名簿」たより⑤

お待たせしました!10月半ばに「名簿」は校了、27日、古本まつりの初日刊行です。

全国二千数百店の住所・電話・取扱分野・営業時間・定休日・最寄駅など基本情報に加え、著名作家百人署名一覧・古書即売展一覧・用紙判型サイズ一覧などを付けました。古本屋の“今”を凝縮した一冊は、きっと古本屋歩きに役立つはずです。

半年間の取材を通じて見えたのは業界の厳しい現状と、頑張る古本屋さんの姿。量販チェーン店の浸透とネットでの価格競争、百貨店の衰退とも相俟って即売展も減少している。新たな客層の開拓に、喫茶やギャラリーを併設、イベント併催・テーマを絞った企画展など様々な試みがある。取扱分野にアート・暮らし・雑貨といったあたりが増えたのは、そんな広がりの反映でもあるのだろう。老舗の歴史の重み、硬派の品揃えを崩さない矜持、特異な専門分野へのこだわりなど、書物文化を継承する広く深い思いにも改めて触れた気がする。「街の古本屋」を謳う店が多いのは、地域に根差し人とのつながりを大事に考えるからこそ。そんな古本屋と読者をつなぐ一助となれれば嬉しい。

ひとつ気を付けていただきたいのは営業時間&定休日。PRに「定時開店」を掲げた店があるが、電話の向こうで営業時間を相談していた例もあるくらいアバウトである。仕入や催事で留守になるし、日没閉門・雨の日休みも珍しくない。「5時までで売上二千円以下なら早じまい」もあるのでご注意を!

最後に各地の古本屋さんのPRからいくつか紹介しよう。どのお店か、本を手にお確かめを。
「古い港町の小さい街の古本屋」「日本で一番東の古本屋」「趣味、珍書、研究資料蒐集助っ人」「古今東西のしみじみ愉快を販売」「ご飯の炊き方から人生の危機まで」「違いのわかる古本屋」「美術館で見たあの版画が買えるかも」「森の中の一坪古本屋」「断腸亭日乗に掲載の古書店」「寛延年間創業、江戸時代にタイムスリップできます」「誠実な商売は客と向き合ってするもんや」「ココロによく効く10万冊」「店は狭いが明るく気楽なおばさんがいます」「自然に囲まれた店で静かに本棚に向き合えます」「神保町一丁目一番地、ここを覗き、さあ本の街へ」「今のうちにご来店下さい」「どうぞ必要以上にお買い上げ下さい」




編集をスタートしてから半年以上かかってしまい、お待ちいただいたお客様方にご迷惑をおかけ致しました。
出来上がった直後に移転情報が入ったり、結構動きは大きく追いつけない部分も少しずつ出てきます。
刊行後にわかった移動については名簿訂正情報をご覧ください。


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